海に浮かぶ墓標

「子どもに迷惑をかけるからお墓は持ちたくない」
「亡くなったあと、暗い場所に閉じ込められるのはいや」
「死後は自然に還りたい」

少子化や核家族化で墓の維持が難しくなっている近年、このような思いから自然散骨を望む人は珍しくありません。

そんな人々から注目を集める場所が、島根・隠岐諸島にあります。
それは、海に浮かぶ小さな無人島「カズラ島」。

国内唯一の散骨島として知られており、島全体が墓標という点で通常の散骨場とは一線を画しています。

今回は「カズラ島」の特徴や、島で散骨を行った人々の様子などを紹介していきながら、自然に還る葬送の現状について深堀りしていきたいと思います。

■日本で唯一の散骨島

島根県の隠岐諸島の中の小さな島「カズラ島」。

カズラ(つる植物)と溶岩に覆われていることからそう呼ばれる小さな無人島は、国立公園に指定された海域にあるため、人工的な建造物がほとんど見られず、将来的にも建造が認められない場所になっています。

固定の桟橋も造れないので通常は船の発着もできません。
仮設桟橋が設けられる毎年5月と9月以外は誰も立ち入ることができないのです。

しかしそれは、人の手が入らない自然を残した無人島としてあり続けることが約束されているとも言えます。

そんなカズラ島が国内唯一の自然散骨所となったのは2008年。
東京の戸田葬祭サービスの役員が隠岐出身だった縁で島を取得し、散骨専用の島としてサービスを始めたのです。

島全体が慰霊碑となっており、いわば海に浮かぶ墓標とも言えるカズラ島は、遺族の気持ちに寄り添った自然散骨を可能にしました。

散骨といえば、文字通り「自然に還れる」埋葬法である「海洋散骨」を思い浮かべる人が多いと思いますが、残された遺族としては少し寂しい葬送でもあります。

なぜなら、手を合わせる対象物がなくなってしまうからです。

遺骨が海水に流される海洋散骨では、遺族に「慰霊の場所がない」という後悔が生まれがちですが、カズラ島散骨場では島から1キロ離れた対岸に設けられた慰霊所からいつでも島を望むことができます。

お別れの儀や命日の法要などは、隠岐の海におだやかにたたずむ島を眺めながら、故人への想いを深めることができるのです。

■散骨島に訪れる人々

首都圏から訪れた姉妹は、粉末にした遺骨を島の小さな切り株の根元にまきました。
「海が見えるからここにします」とまいた遺骨は両親のものだそうです。

それぞれ今の時代では若すぎる70歳と76歳で亡くなった両親は、生前に散骨の希望を口にしていたことがあったそうですが、具体的な話はしたことがなかったといいます。

しかし、実家の整理をしていると「散骨島 島根県」と書かれたメモが見つかり、インターネットで調べてこの島の存在を知りました。

本人の遺志であったことと、海の散骨と違って場所がはっきりしていたことが、散骨することを決めた理由だと話しています。

松江市のBさん(81)は12年前に亡くなった妻の遺骨を島にまきました。
それ以来、年に2回島を訪れていたBさん。

しかし、人の手が入らず自然のままの姿を保つカズラ島への慰霊は、高齢のBさんにとって身体への負担が年々大きなものになっていきました。

「足に自信がないから、今回が最後だ」と話しながら慰霊に訪れたBさんは、自分が亡くなったときもカズラ島での葬送を希望しています。

「その時には奥さんの上にまきますね」という担当者に、「島全体がお墓だと思っているよ」とBさんは笑って答えていました。

■故人の意思も、遺族の心も大切にする散骨島

いま日本で散骨しようとした場合、陸地で散骨できる場所は限られています。

周辺環境への影響や地元住民の反対などで、陸地での散骨施設は整備が難しいのです。
そのため、日本で散骨をするとなると海洋散骨を選択しなければならない場合が多く、遺族に後悔が残ってしまうケースも少なくありません。

しかしカズラ島での散骨は、海上の島全体を墓標とすることで海洋散骨に近い形でありながら、花や木を墓標とする自然葬にも似た葬送です。

これは、故人の遺志を尊重し遺骨を自然に還しつつも、遺族の供養の場所も残せるという、双方の希望にしっかり応えた新しい散骨のかたちといえるでしょう。

墓守も管理手数料の必要なく、自然とともにそこに在り続けることができる散骨島は、島という特性上ほぼ半永久的に残り続けることが約束されたお墓です。

多様性の現代。お墓のカタチに正解はありません。
それぞれが自分のルーツ(過去)とこれから先(未来)をしっかりと考え、自分らしい供養のカタチを見つけなければなりません。
皆と同じようにすれば良かった時代は終わってしまいました。
どうすべきか真剣に考えることが、お墓づくりのスタートになるのでしょう。

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