シニア世代「駅近」マンションへ

長年住み続けたマイホームを手放して、便利な駅近マンションに住み替えるシニア層が増えています。

子どもが独立し仕事が一区切りついてみると、夫婦二人が暮らすには不必要に広かったり、利便性や庭や家のメンテナンスを考えると、駅近マンションの方が便利で簡単だからです。

子育てや仕事を終えた後、豊かなセカンドライフを送るため積極的に住み替えを検討・実行するシニア層。

今回は、郊外から中心部へ向かうシニアの動きを探ってみたいと思います。

■ライフスタイルの変化と住まいのミスマッチ

現役時代に購入する家は、育児や教育に配慮した立地だったり、子どもがのびのびと過ごせる広い空間や間取りに重点が置かれます。
それに自分やパートナーの通勤のしやすさもあるでしょう。

しかし家族構成やライフスタイルは、年齢を重ねるごとに変化していきます。
子どもが独立し仕事も一区切りついたとき、今の家はこれからの生活にふさわしいものでしょうか?

広い家は部屋数が多かったり面積が広い分、掃除などの負担も多くなるうえ、二階建てであれば、年齢を重ねると階段の昇り降りも大変になってくるでしょう。
戸建であれば、メンテナンスやセキュリティの不安も拭えません。
また通勤通学の利便性を考えた郊外の立地は、シニアにとっては買い物や移動に不便な場所であることがよくあります。

このように年齢を重ねてからの生活と、現役時代に購入した今の住まいのミスマッチに悩むシニアはとても多いのです。

■増える住み替えシニア

6年前に神奈川県三浦市の一戸建てから東京都心の賃貸マンションに移ったAさん。
「宅配の取り次ぎやゴミ出しが楽だし、管理人が常駐するので安心」と話します。

現役時代、都心の出版社へ片道2時間かけて通いましたが、今は品川駅から徒歩5分の便利な場所に住んでいます。

自然環境の良さや始発駅にあることに惹かれ29年前に自宅を建てたAさんですが、定年後も東京へ出かける機会が多く、移動が辛くなったそうです。
今はすぐ都心に出られ、近くに商業施設や医療機関もあり便利だと満足そうに話します。

また、千葉市のBさんは郊外から最寄駅の近くに移り住みました。

JR総武線・稲毛駅からバスで12分の一戸建てに住んでいましたが、年齢とともに庭の手入れが大変になり、そのうえ古い家なので冬は寒く地震による倒壊も心配でした。

駅から徒歩2分の中古マンションを購入したのは、会社を辞めた67歳のとき。
郊外の稲毛にこだわったのは友人と離れたくない妻の希望を尊重したからですが、駅前だと外出しやすく、今も東京に出かけることが多いと満足そうに話します。

さらに駅前のサービス付き高齢者向け住宅も人気です。
「スマイラ聖蹟桜ヶ丘」は、京王電鉄が17年2月に都内の聖蹟桜ヶ丘駅前に開いたサービス付き高齢者向け住宅で、徒歩5分圏内にスーパーや銀行、病院、市役所支所など、生活に必要な施設が揃っています。

開設前から内覧者が相次ぎ、開設から1ヶ月ほどで53戸のうち8割が埋まる人気ぶりです。
周辺の丘陵地には住宅街が広がり、京王電鉄ではそうした坂の街からの移住を見込んでいます。
実際に地元の多摩市内からの転居が約3割を占め、沿線を含めると8割に達しています。

■住み替えで得られるメリット

長年住み続けたマイホームを手放すというのは、なかなか大きな決断です。

しかし住み替えたシニアの大半が住み替えをして満足しています。
では、住み替えることでどんなメリットがあるのでしょうか?

まず、今の自分にあった間取りや設備で暮らせることは大きなポイントになります。
一戸建てのように家中の戸締りを確認しなくて良かったり、住宅内の階段の昇り降りが少ないことも魅力です。

さらに、庭の手入れが不要なうえ、オートロックなどのセキュリティが充実していることも見逃せません。

また、子どもや孫と同じマンション内で別々に住む「二世帯近居」ができるのもマンションならでは。

同居と違い、適度な距離感を保ったままお互いの暮らしをサポートしあえる近居は、コミュニケーションを密にしながら万一のときには身内の助けが得られるというメリットがあります。

そして、利便性の良い土地を自由に選べるのもポイントです。

郊外の家は、スーパーや病院など生活インフラ施設へのアクセスに大きな負担がかかります。
家の設備はリフォームなどで対応できますが、立地だけはどうにもなりません。

内閣府が2015年にまとめた「国土形成計画の推進に関する世論調査」によると、居住地域を選ぶ際に重視する条件は、1位の「治安が良い」に続き「医療・介護の環境が整っている」「買い物が便利」が上位に入りました。

年代別にみると、特に60代は約7割が医療・介護をあげており、健康面への関心の高さがうかがえます。

また、移動がしやすいことや周辺施設が充実していることで、外に出る機会も自然に増えていきます。

「新しい趣味を楽しめる」「新しい友達ができた」など、住み替えがきっかけでアクティブに活動するシニアが増加しているのです。

近年、外に出る機会や人とのコミュニケーションが減ることで、自宅に引き篭もりがちになり孤立してしまう高齢者が増えています。
住み替えはそんな高齢者を減らす打開策にもつながるのかもしれません。

■長いセカンドライフを見据えて…

以前は子どもが生まれたタイミングで一戸建てを購入しマイホームを持つことは、「夢のマイホーム」という言葉があるように、一種のステータスであり憧れでもありました。

しかし年齢を重ねるごとに、家族構成やライフスタイルは変化していき、住まいの役割も変わっていきます。

人生100年時代と言われるいま、長いセカンドライフに重点をおく住居に住み替えることは、自然な流れであるといえるでしょう。

また近年、高齢者ドライバーの交通事故を耳にする機会が増えています。
公共の交通機関が気軽に利用できる環境であることはもちろん、徒歩圏内に生活インフラ施設が整っていれば、そのような事故も減少していくのではないでしょうか。

要介護率が高まる75歳以上の後期高齢者は、今後急増していきます。

どんな家なら快適に老後を過ごしていけるのか。
元気なうちから後半人生にふさわしい住まい探しや住み替えをする動きは、今後も加速していくでしょう。

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