認知症の症状の一つ「徘徊」。
家の中や外を歩き回り転倒や交通事故につながることもある危険な行動です。
中には行方不明になってしまうケースもあり、
超高齢社会になった今その対策が急がれています。
そんな中、注目を集めているのがGPSやスマホなどのIT(情報技術)を使った徘徊対策です。
家族や認知症高齢者本人の負担を少しでも減らそうと、
導入を進める自治体が増えています。
終活をはじめようと考えたり、いま終活を行っている終活世代にとって、
認知症は他人事ではありません。
何事からも目をそらさず、知ることからどう対処すべきか見えてきます。
認知症による徘徊の症状を消すことは難しいですが、効果の高い対策をとることができれば
事故や行方不明につながるリスクを大幅に減らせると期待されているITを活用した徘徊対策。
まずは、徘徊の現状を紹介していきます。
増える「徘徊」による行方不明者
警察庁の調べによると認知症による行方不明者の届け出は、
2016年は15,432人でした。
統計を開始した2012年は9,607人で、年々増え続けており、
わずか4年で約1.6倍に増えています。
2015年以前に届け出を受けた人数を含め、
2016年に所在が確認された不明者は計15,314人で、
警察の捜索活動や通報で発見されたケースが63.7%と最も多く、
不明者の自力帰宅や家族による発見は32.3%、
3.1%にあたる471人は残念ながら死亡した状態で見つかっています。
年間で約15,000件以上も起きている認知症による徘徊は、
幸いにも届け出が出てから数日の間に見つかっているケースが大半ですが、
命に関わる恐れがあるので、その家族や関係者の心労はとても大きいものでしょう。
しかし超高齢社会が進む日本では認知症患者は今後も増える見通しで、
団塊の世代が75歳を超える2025年には約700万人となり、
65歳以上の5人に1人は認知症を患うと予想されています。
それに伴い高齢者の徘徊による行方不明者数は、今後もますます増加していくことになるでしょう。
徘徊で起きる事故と、負担に苦しむ家族
徘徊は認知症患者の代表的な症状ですが、
事故に遭ってしまう可能性も含めとても危険な行動です。
中には保護が間に合わず、悲惨な事故に繋がってしまうケースもあります。
平成19年12月、愛知県の91歳の認知症の男性がJR駅構内で電車にはねられ、
死亡する事故がありました。
男性は数年前から認知症の症状が出始め、
事故当時は要介護4と認定されるほど症状は重くなっていました。
当時85歳の妻と二人暮らしをしていた男性ですが、妻だけでは介護の負担が大き過ぎると、
横浜在住の長男は月に数回週末を利用して実家に戻り、
家族で介護にあたっていました。
しかし男性は徘徊症状により昼夜問わず外出しようとするので、
その介護は困難極まりないものになっていたことでしょう。
そしてほんの数分、妻がうたた寝をしていた一瞬の隙に男性は外出。
駅のホームから線路に立ち入り、電車にはねられ死亡してしまったのです。
家族はJRから約720万円の遅延損害の賠償を求められ、
1審の名古屋地裁では妻と長男の責任を認め720万全額をJRに支払う判決が下されました。
妻については「まどろんで目を離したのだから注意義務を怠った過失がある」
また長男については離れて暮らしていましたが、
「事実上の監督者として徘徊を防ぐ対策を怠った」としたのです。
この判決は介護をしている多くの他の家族にも衝撃を与え、
認知症患者を介護する家族は24時間見守り続けなければならないのか?と、
介護者に全責任を負わせる判決は不当であると、怒りの声が多く上がりました。
最終的にこの裁判は、
介護する家族に賠償責任があるかどうかは家族の心身の状況や、
生活状況などを総合的に考慮して決めるべきで、
今回この妻と長男に賠償責任はないと結論づけられ、
2016年にJR側の敗訴が確定しました。
認知症患者数が増加している今、
この事故と一連の裁判は、今後の認知症患者の介護のあり方に大きな影響を与えるでしょう。
現在、こういった認知症患者の徘徊症状を防ぐため、
ITを活用した徘徊対策が増えはじめています。
介護をする家族の負担を減らす、今時の対策方法とはどんなものなのでしょうか。
次回の記事では、ITを利用した徘徊対策についてお話をさせていただきます。
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