【終活】地域の力で介護費抑制②

前回の記事から引き続き介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」)についての話題です。

前回は、介護保険で比較的軽度とされている「要支援1・2」の高齢者を、
弁護士やヘルパーなどに代わり市区町村が支えていくという説明をさせていただきました。
実際に介護予防や生活支援のサービスを行っている市区町村では、
「要介護4」だった男性が「要支援1」にまで回復するなど大きな結果を得ています。

本来なら喜ぶべき事ですが、ここで大きな問題が…。
今回は、総合事業のメリットの裏にあるデメリットの面を中心にお話したいと思います。

介護保険改革が生み出した課題

地域互助による総合事業がスタートしてから、「要支援1・2」の人に対して行われてきた介護予防訪問や
介護予防通所介護などは介護保険から切り離される
ことになりました。

財政がひっ迫する介護保険では実施が難しい多様なサービスを、
自治体主体の総合事業で受けてもらい、
要支援の人の自立を進め要介護への進行を予防するための措置なのですが、
これにより必要なサービスが削られる深刻な状況が生まれています。

「地域の力で介護抑制①」でもご紹介した大阪大東市ですが、
総合事業がスタートしてから要介護認定者を激減させている
総合事業のモデル自治体ともいわれています。
この町に住む83歳の男性は要支援2に認定されており、市内の古い公営住宅の
エレベーターが止まらない2階の部屋でひとり暮らしをしています。

トラック運転手をしていたときの事故の影響で両足はしびれ、
膝や腰に痛みがありコルセットが手放せません。
5年前には心筋梗塞で手術をし、以来介護保険を利用して、
週に2回通常介護に通い通所介護入浴して体操。
訪問介護も週2回、各1時間利用し、ヘルパーに調理や掃除を頼んでいました。

サービスはもちろんですが、スタッフや利用者との交流が男性の孤独を癒す心の支えにもなっていたのですが、
総合事業が始まると、
このまま介護保険サービスを利用していると自立が進まないと判断され、
サービスを次々と中止。
男性は介護保険からの「卒業」を余儀なくされました。

大東市は、通所介護を「卒業」すると、町内会などが行う介護予防教室への参加につなげますが、
足腰に問題を抱える男性は痛みで遠くに出歩くことができません。
さらに訪問介護は週1回30分の、住民による生活サポート事業に代わりました。
総合事業が実施される前はホームヘルパーの手料理を数少ない楽しみにしていましたが、
今は掃除だけのサービスに縮小され食事は宅食に変わりました。

外出したり、人と触れ合う機会がほとんどなくなってしまった男性。
「時々足の力が抜けたようになり、身体が弱ってきたのを実感する。
保険料をかけてきたのに介護サービスが使えない現状は、
民間保険だったら詐欺と言われるんじゃないか」と
総合事業に対し釈然としない気持ちを隠せません。

このように「要支援」といっても、その背景にはもっと深刻な問題が隠れていることがあります。
しかしその見極めが不十分であれば、
自立支援を進めたつもりが逆に要支援者の生活の質を下げてしまうことにもなり得る
でしょう。

「担い手不足」や「地域格差」の懸念

NPOや地域住民のボランティアなどで実施される総合事業ですが、
全ての自治体で順調に進められているわけではありません。

その大きな原因のひとつに「担い手不足」が指摘されています。
多様なサービスを支えるためには地域住民のボランティアが必須ですが、
実際に手を挙げる人が少ない
というのが現状です。

経済的に余裕のある一部の人は力になってくれるかもしれませんが、
担い手として期待される65歳以上の前期高齢者の人はまだまだ元気なこともあり、
同じ「働く」ならば、ボランティアよりも自分や家族のために仕事することを選ぶでしょう。

またボランティアの育成が進んでいないケースも目立ちます。
市が住民への研修を予定していても参加希望者が一人もいなかった自治体や、
資格のないボランティアが訪問介護先でお年寄りに説教をしたことで、
トラブルになってしまった自治体など、
住民の理解が進んでないのが実情です。

さらに、総合事業は全国一律のサービスが定められていた介護保険事業とは異なり、
地域の実情に応じてサービス内容や価格を自治体が独自に決められるため、
自分の住んでいる町より隣の町の方がサービスが良く料金も安い、などといった
「地域格差」が生まれるデメリットもあります。

介護費用の膨張をストップさせたい国は、将来的に「要支援」にプラスして
「要介護1・2」までの福祉系サービスを総合事業に移行させる議論も進めています。
そうなれば地域格差はさらに顕著になってしまうでしょう。

自分らしく生きていくための地域互助

お年寄りが近所の公園に集まって体操をしたり、となり同士当然のように助け合う。
「向こう三軒両隣」という言葉があるように、
かつての日本では当たり前のように見られた光景でしたが、
現代ではそうした関係性を地域で築くのが難しい場合もあるのが現状です。

総合事業は介護保険財政のひっ迫から、その縮小を狙って作られたシステムですが、
地域住民主体で進められる、ということは近隣同士の助け合い、
つまり地域の絆を強める絶好のチャンスにもなり得ます。

まだ始まって間がないこともあり問題点は多くありますが、
互助の力で支え支えられる社会づくりこそが、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を
最後まで続けていくためのポイントになる
でしょう。

そして忘れてはいけないのが、どんなに自立支援を頑張っても自立が難しい高齢者がいるということです。
総合事業では自立した日常生活を実現することに重点を置きすぎて、
自立できないことを自己責任としてしまっているように見て取れるケースも発生しています。
無理やり自立させ、介護サービスから卒業させることを目的化してはならないでしょう。

今回の介護保険の大改革は、今は元気であってもいずれは支えてもらわなければならないことを忘れず、
全ての高齢者が安心して暮らしていける社会づくりを考えるきっかけにもなったと思います。
まだ元気な私たちも当事者意識をもってこの改革に参加していくことが、
自分らしく明るく老いを生きるための鍵になりそうです。

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