【終活】普及が進んでいない成年後見制度、どう広げて行くか?

この終活コラムでも話題に取り挙げた「成年後見制度」。
介護保険制度と共に始まった制度のひとつですが、
介護保険に比べ、成年後見制度は普及が進んでいません。
今後も高齢者がさらに増えていくに当たって、こういった制度は必要となってきます。
終活の準備のためにも、現在その成年後見制度はどこまで認知され、利用されているのか、
一緒にみていきましょう。

「第三の後見人」である「市民後見人」とは?

まずは、「成年後見制度」のおさらいをしてみましょう。
成年後見制度とは、
認知症などで判断能力が十分でない人が、
不利益を被らないよう、
家庭裁判所に申し立てをして援助してくれる人を付けてもらう制度のことです。
さらに詳しい内容は「元気なうちにいざという時に備える、任意後見制度」のブログを参照してください。

今、その成年後見制度の利用者が増加傾向にあります。

成年後見制度の利用者の推移を見てみると、
2011年から徐々に右肩上がりで利用者が増えているのが分かります。
では、なぜ普及が進んでいないのか…。
2016年12月末では約20万人と過去最多の記録を更新していますが、
実は、判断能力が不十分とみられる人の総数は推計約870万人いると考えられている中で、
成年後見制度の利用者は、わずか2%にすぎないのです。

今後、認知症高齢者が増加し、
後見人の需要も高まって行くと見込まれますが、
親族や、弁護士、司法書士などの専門職だけではこれらを全てまかなうことは難しいのが現状です。
そんな中で、新たな後見の担い手として、
「市民後見人」の活用が期待されています。

「市民後見人」とは、
親族以外の市民による後見人のことで、
弁護士などの専門職後見人と同様に家庭裁判所が選任し、
判断能力が十分でない方の財産管理や、
介護施設の入居手続きなどの身上監護などを、
本人の代理で行います。

成年後見制度がスタートした当初は、
後見人に本人の配偶者、子、兄弟姉妹などの親族が選ばれるケースが全体の91%に及んでいます。
最近では、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職である「第三者」が選ばれることが増えてきました。
ただし後見人に専門職を選任すると毎月最低でも2~3万円の報酬を支払わなくてはならなくなり、
身寄りがなく収入も低い、資産もない認知症高齢者は成年後見制度の利用が難しくなってしまいます。
そこで「第三の後見人」として市民後見人が選択肢となるわけですが、
市民後見人が選ばれる割合は全体のわずか約0.5%と、
こちらも普及が全然進んでいないのです。

「市民後見人」に対する不安。ボランティア精神が試される活動。

市民後見人になるためには資格はいりません。
その代わり、自治体が行う半年の養成研修を受けたあと、
行政の推薦を受け、家庭裁判所の名簿に記載されたうえで選ばれる必要があります。
弁護士や司法書士と違い、バックに行政や社会評議会がないと市民後見人になるのは難しいようです。
それもあってか、「市民後見人は専門知識が少ないから、信用できるか分からない」という声が上がっているのです。

また、市民後見人は社会貢献やボランティア活動としての位置づけです。
ですので、自治体によっては多少の報酬を払う場合もありますが大半が「無報酬」としています。
つまり、「見返りを求めない後見活動を行ってもよい」といったボランティア精神がないと勤まらないのです。

しかし、法律に詳しく頼りになる弁護士だから安心、と言い切れるのでしょうか。
「元気なうちにいざという時に備える、任意後見制度」のブログにも少し記載しましたが、
2010~2014年の過去5年間の間に、成年後見制度を悪用した弁護士の着服事件が少なくとも62件起きています。
その被害総額は約11億2,000万円に上るそうです。
こうした事件の再発防止に向け東京家裁では
「弁護士の推薦を受けた弁護士にしか後見人に選任しない」取り組みをスタートしました。

そして市民後見人と違い、
弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門後見人は報酬をもらって成年後見の業務にあたっています。
東京家裁の例を挙げると通常の事務の場合、毎月の基本報酬額は2万円。
しかし管理財産が高額になると管理業務も複雑になるため、
1,000万~5,000万円の財産は月額3~4万円、
5,000万円以上の財産は月額5~6万円と報酬額が高くなっていきます。

もちろん、専門後見人が高額だからという消極的な理由で市民後見人を選ぶわけではありません。
専門職は確かに法律や福祉のプロではありますが、
判断能力が不十分になった人の「身上監護」という点では、
地域住民同士の支え合いの精神と市民感覚の目線でサポートしてくれるのが強みです。
それゆえ、高齢者の方々を支援するには市民後見人の力が必要なのです。

気持ちに寄り添う市民後見人を育成する「成年後見センター」

東京都内には、市民後見人の養成を始めた施設があります。
品川区社会福祉協議会が運営する「品川成年後見センター」は、
成年後見制度の相談・手続き支援や地域のネットワークを生かしたサービスの提供をしていましたが、
後見人の担い手を増やそうと2006年から市民後見人の養成にも取りかかり始めました。

区内の有料老人ホームで暮らすAさん(77歳)は、
身近に対応出来る親族がいなかったため、
社会福祉協議会が法人として後見人となりました。
後見人となる成年後見センターの職員と穏やかな会話をし、
一見では家族と見間違うほど仲の良いお二人だそうです。
Aさんは最初不安定な時期もあったようですが、
施設や医師と綿密に話し合い、こまめに訪問して信頼関係を築いていったそうです。
Aさんは職員のことを「優しくしてもらい、本当に頼れる存在です。」と語ります。

また、市民後見人となったBさんは担当している男性(72)のもとへ週1回通っています。
「その人の暮らしを背負っていて、責任は重い。しっかり支えるために、相手のことを良く知りたい。」
と、Bさんは話します。
男性は認知症があり、どう関係を築くかは手探りでしたが、
大相撲の稀勢の里の話題を出したところ「中学高校と相撲をやっていた」と男性が話し始め、
Bさんは手応えを感じたと喜んだそうです。
Bさんは「自分も将来、制度のお世話になるかもしれない。大切な制度と実感した。」と語ります。

こうした人の気持ちに寄り添い、心から支えるところが市民後見人の強みの一つです。
終活をはじめようと考えている方にとって、頼もしい存在と言えるでしょう。

まとめ

普及がなかなか進んでいない成年後見制度ですが、その状況を変える動きがあります。
議員立法で2016年4月に、「成年後見制度利用促進法」が成立し、
2017年3月には、政府が「利用促進基本計画」を閣議決定しました。

「利用促進基本計画」とは平成29年度から33年度までの5年間を念頭に成年後見利用促進の計画を定めるものです。
今の制度は財産管理に偏った支援であるため、今後はよりご本人の意思をくみ取り、
意思決定支援と身の上保護の側面を重視した制度に変えていくことが検討されています。
権利擁護支援の地域連携のネットワークづくりや、市民後見人の養成や死後事務についての規定、
不正防止についての方策を地域から考えて行く計画です。

今後この基本計画を勘案しつつ、各市区町村において計画を策定していくことになります。
いち早く動いたのは埼玉県志木市で、全国に先駆けて利用促進条例を制定。
計画を練る審議会や中核機関を設けるなど、積極的に取り組みを始めています。

今後も利用者が増える可能性がある成年後見制度。
その定着率は低いですが、促進法が成立した現在、
これから私たちの生活の中で耳にすることも多くなると思います。
老いた親や、将来老いた自分たちのために、
地域で様々な担い手を増やして行くことが明るい終活につながることでしょう!

 


リガーズサービスのコラムについて

リガーズサービスのコラムでは、医療や福利厚生、より良いシニアライフの考察に役立つ情報を幅広いジャンルからピックアップして配信します。
エンディングノートや遺言をつくることだけが終活ではありません。
終活とは成熟した大人がこれからの人生をどのように楽しみ、
次の世代に何を託すのかを決める作業です。
何かを決めるということは大変な作業ですが、それだけにその決断は大切なヒトへのやさしさや愛情になるのではないでしょうか。
リガーズサービスのコラムが、あなたの充実した終活のお役に立てれば幸いです。

【公式ホームページ】あなたの終活に役立つ、リガーズサービス

カテゴリー: 終活 タグ: , , , パーマリンク