【終活】尊厳死の行方①

年間130万人が亡くなる多死社会。
終末期の患者の「延命治療をしない」選択を尊重する動きが広がっています。
苦痛を伴う措置を望まぬ人が増えている一方で,今の日本には延命治療を受けずに死を迎える「尊厳死」を認める法律はありません。
「死への意識」が変わってきている今、医療・介護はどう対応しているのでしょうか。
今回は自分らしい「死」についてお話していきます。

●延命治療を望まない人が9割を超えた現代

厚生労働省の調査では老人ホームでの死亡数は2015年で8万1,680人と5年前の約2倍に増えています。
高齢者施設が「ついのすみか」になるにつれ、入所者の延命治療に直面する施設が増えてきている中、東京都世田谷区にある特別養護老人ホーム芦花ホームでは、終末期の看取り介護に取り組み、入所者が亡くなるまで平穏に過ごすための支援を重視しています。

“生きるための医療も大事ですが、その人らしく平穏に死ぬための医療が求められている”

そう考える芦花ホームは、延命治療を希望するか本人が選択でき、認知症などで本人の意思が確認できない場合は、状態を見ながら家族と医師で面談を重ねて決めるようになっています。
さらに施設に加え、在宅での看取りも静かに広がりをみせ、自宅でゆっくり最後を過ごしたいという本人の意思を尊重した支援をしている訪問看護ステーションも増えてきています。

●尊厳死の法制化

介護施設や訪問看護が「死への意識」に対しての対応が変わってきている中、医療現場ではまだ課題が残されているようです。
日本では「安楽死」はもちろん、「尊厳死」の法制化は国会でも議論されたことはありません。
ただ、超党派(国会や地方議会の議員が政党の枠組みを超えて協力し合う派閥)でつくる「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」が、2012年に尊厳死法案をまとめています。
法案の内容の中には
■生命維持治療を差し控える、あるいはいったん始めた生命維持治療を中止するという患者の事前指示を定めた規定
■医師は、患者の事前指示に従って治療を開始しない、あるいは中止することができるという規定
■患者の事前指示に従って治療を開始しない、あるいは中止した医師は、民事・刑事・行政上の責任を問われないという規定
というように、法制化の背景には医師の免責がありますが、医療現場では法制化に消極的な声が多いようです。
2014年厚労省の調査では、終末期の治療方針の法制化について「定めなくてもよい」「定めるべきではない」の結果が国民の53.2%に対し医師は71.3%と高い数字を示しています。

なぜ医療現場では消極的なのでしょうか。

とりわけ延命治療の中止については、法的に今は「グレーゾーン」として認識されています。
「一定の要件に従って延命治療の中止を行っても法的責任を問われることはない」という明確な法的担保がなければ、中止することをためらったり途中で中止することができず、逆に過剰な差し控えにつながる可能性も否定できず、結果的に患者の意思を尊重しないことになります。
この医師の免責規定が法制化されることによって、これまで法的には「グレーゾーン」であった医師の行為が適法か、適法ではないかという問いに対し、法に基づいて行う治療の不開始や中止は適法であるという答えが明確になります。
ですが法制化され「尊厳死」が認められても、まだ課題は残ります。
・「死期」についての解釈
・家族の同意
など まず、終末期の定義と判断、理解について、もう少し検討が必要と思います。

●「死ぬ権利」とは

上記で介護・医療の「死への意識」から体制の変化についてお話しましたが、私たち人間にそもそも「死ぬ権利」はあるのでしょうか。

生物学者で早稲田大学教授の池田清彦さんは「努力して手に入れたわけではない命は、自分の所有物ではない」という理由から「死ぬ権利」はないとみています。
さらに、尊厳死の法制化は健常な人にだけ死ぬ権利を与えることになるという意見もあれば、一部の障害者団体から「尊厳死法制化によって障害者や難病患者の生きる権利が奪われるのではないか」という声もあり様々な意見があがっています。

今の日本では「死」をネガティブなもの、タブーとして扱うものという認識を強く感じます。
さらに戦後「寿命は延びるものだ」というのが常識になった結果、「死」になかなか向き合えなくなってきているようにも思います。
「死について考える」ことを先延ばしにする風潮が、「尊厳死」の問題をさらに解決しづらくしているのかもしれません。

今回は「尊厳死」を捉えた現状についてお話しました。
次回は自分らしい死について、今注目されているACP(アドバンス・ケア・プランニング事前に行う意思表示)の大切さについてお話したいと思います。

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