辛い痛みに耐えかねて病院に駆け込みますが、医師に痛みがうまく伝わらない…。
こんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
痛みはとても主観的かつ複雑であるため、他人と認識を共有することがとても難しいものです。
しかし、自分の症状に合った治療を進めたり薬を処方してもらうためには、医師に自分の痛みを正確に伝えることが重要です。
そこで今回は、的確な治療のために必要不可欠な痛みの上手な伝え方について
考えてみたいと思います。
■伝えることの重要性
痛みは主観的で他人からは分かりにくく、ひどい痛みの時にはひたすら「痛い」と訴えがちです。
製薬大手のファイザーは2016年9月、慢性痛患者(約5000人)と慢性痛治療の経験がある医師(約170人)を対象に、痛みと治療に関するアンケート調査をインターネットで実施しました。
その結果、患者の約7割が「痛みをどのように伝えたらいいか分からない」と回答し、多くの人が自身の痛みを伝える際に戸惑いや課題を感じていることが分かりました。
奈良市のかわたペインクリニックの河田医院長は「痛くてつらい気持ちはわかるが『とにかく痛い』などと痛みの感想を話されるだけでは治療に進めない」と話します。
痛みに関する情報が多いほど治療の選択肢が増え、正確に治療方針が決められ効果も高まることから、医師任せではなく患者自身が痛みの内容を細かく伝えることが重要なのです。
「お医者さんに痛みを正確に伝えるのがいかに大事か分かった」。
長年、首と腰の痛みに苦しんできた奈良市在住のAさんは、
痛みを正確に伝えることの重要性を、かわたペインクリニックでの自身の経験からこう話します。
同クリニックの河田医院長は、Aさんに今抱えている痛みについてできるだけ具体的に伝えるよう求め、Aさんは「下を向いた時に、首の付け根から肩にかけ、キューンとつったように感じる」などと伝えました。
河田院長は、Aさんが過去に追突事故にあった経験があることと合わせて考え、むち打ち症の後遺症が出ていると診断。
それまで使用していたのとは別の痛み止め薬を飲んだり、
脊髄へ注射を打つなどの治療を施し、痛みは和らぎました。
Aさんは「正しく伝わり、適切な治療を受けられた」と満足しています。
■痛みを上手に伝えるためのポイント
「せっかく受診したのに、満足のいく治療をしてもらえなかった…」とならないためにも、痛みを上手に伝えるために、押さえておきたいポイントがあります。
いつから起きたのか、何かきっかけはなかったか、痛む部位や強さ、差し込むようだとか、殴られたようだなどの痛みの性質がそのポイントです。
他にも「ニューメリカルレーティングスケール」という手法がありますが、これは医師が患者の痛みの強さを知るために用いる方法です。
痛みを0~10の11段階に分け、痛みが強い時を10として現在はどの程度か聞くものです。
痛みが弱ければ1や2などと答え、強ければ9や10と答えます。
数値を大きく言う人や、逆に控えめに言う人もいますが、医師は痛みに関する他の情報も加味して強さを補足するので、実態と大きくずれることはあまりありません。
治療を進めていくなかでは、初診時からどの程度変化したかで治療効果を確認することができます。
また、すでに他の医師に診てもらっていた時は、遠慮せず申告することも大切です。
「実は先日同じ症状で別の病院に診てもらい、薬も出されているのだけれど、あまり効果がないので別の病院を受診した」というケースがあるかもしれません。
しかし、それを言うと失礼になるのでは…とあえて言わないという人もいるでしょうが、前回の病院と同じ薬が出たり、飲み合わせの悪い薬が処方される危険もあるので、セカンドオピニオンであることを必ず伝えるようにしましょう。
■痛みのオノマトペ
オノマトペとは擬音語や擬態語の総称です。
例えば、生き物の鳴き声を「ワンワン」「ニャーニャー」「コケコッコー」などと表現したり、心で思っていることや状態などを「ドキドキ」「ワクワク」「ハラハラ」などと表現したものです。
オノマトペには体の違和感や痛みを表す表現がたくさんあります。
ピリピリ、ヒリヒリ、ジンジン、ズキズキなど、実際の痛みに近い表現を使うことで鈍い、鋭い、重いなど、痛みの性質を把握する手がかりになるのです。
ファイザーがインターネットを通じて調査したところ、患者に問診する際に「痛みを上手に伝える・聞き出すための工夫」として、患者の約7割、そして約9割の医師がオノマトペを使用しているという結果がでました。
医師が問診でオノマトペを使う理由(複数回答)は「患者からの痛みの情報を聞き出しやすくなるから」(93%)、「患者の痛みの表現から痛みの種類が推測できるから」(91%)でした。
患者も「自身の痛みを説明しやすいため」(94%)、「痛みを感覚的・直感的に表現できるため」(93%)などが主な理由になっていました。
また診断された病名は、そのオノマトペと一定の関係があることも分かりました。
把握しにくい患者の痛みを的確な診断につなげるツールとして、オノマトペは非常に重要な役割を担っているようです。
■痛み治療は、患者と医師の共同作業
痛みに関する治療が専門のペインクリニックでは、
医師が状態を細かく聞き出していくなかで患者も自分のことを客観的につかみやすいですが、痛みの専門の医師がいない一般の病院などでは、自身の痛みを客観的に説明するのが難しいことがあります。
そこで、痛みの情報をメモしたり日記につけて病院に持って行くのがとても有効です。
一週間前のことを「どうだったかな?」と思い出しながら話すよりも、
自分の書いたメモや日記を見ながら話す方が効率的で正確です。
医師は痛みの情報を基にどうして痛くなるのかという仕組みを説明。
治療法の種類や内容を説明し、どの順番で治療するかなど、ひとつずつ患者と相談しながら決めていくことになります。
痛み治療は患者と医師の共同作業です。
治療というと、どうしても医師に任せてしまいがちですが、痛み治療では患者側も積極的にコミュニケーションをとっていくことが重要になってきます。
ただ「痛い」というだけでなく、どのような痛みが出ているのかを自分で把握し、痛みの性質を上手に医師に伝えることが、治療をスムーズに進め痛みを和らげる
近道になるでしょう。
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