遺産分けで起きる遺族同士のトラベルが絶えません。
ときに「相続」は「争族」という字を当てはめることがあるように、財産分けは親族間での争いの芽になることが非常に多い のです。
こうした相続トラブルに対応するために、政府は遺言の作成方法を含め、手続きを円滑にするための法改正に取り組んでいます。
しかし法改正の実現は数年後とみられるうえ、問題も山積みです。
そこで今回は、残される家族が揉め事に巻き込まれないのための鍵になる「遺言書」について注意点をまとめていきたいと思います。
■増える公正証書遺言と相続トラブル
公証役場で作成される遺言の件数が年々増加しています。
遺産相続を巡るトラブルを防ぐために、法的に強い効力を持つ公正証書を活用しようと考える人が増えているからです。
千葉県に住む会社員Aさんは、最近父親から遺言書作成の話を聞き「ホッとしている」と言います。
昨年末に病気で死線をさまよった87歳の父は、従来遺言には消極的でした。
しかし病気をきっかけに、自分の死後も家族が仲良く暮らせるようにとの想いから遺言を前向きに考えるようになったそうです。
父は次男と長女には金融資産を、そして病気がちの自分を長年世話してきた長男Aさんに自宅を相続させ、高齢の妻の面倒もみてもらいたいと考えています。
近く遺言を作成する準備に取り掛かる予定です。
遺産相続のトラブルを防ぐにはまず遺言書に従うのが基本ですが、
法律上、遺言がなかった場合、遺産分けは遺族の話し合い(遺産分割協議)に委ねられます。
しかしこの協議はこじれることが多く、争いになって家庭裁判所に持ち込まれた件数は2015年に約1万5000件。
10年前に比べると約25%も増加しているのです。
■自筆証書と公正証書
遺言で一般的なのは、本人が全文を自分で書く「自筆証書遺言」と、
元裁判官ら国に任命された公証人に話をして文章にしてもらう「公正証書遺言」があります。
自筆証書遺言は紛失や変造の恐れ、また形式に不備があると無効になるというリスクはありますが、いつでも書ける手軽さがあるうえ、その内容を誰にも知られることはありません。
開封時に家裁で検認という手続きが必要になってきます。
「遺言を書く気になったが何をどう書いていいのか分からない」という人や、
字が思うように書けないという高齢者の方は公証人に相談し、「公正証書遺言」を作成するのが良いでしょう。
公正証書遺言は二人以上の証人が必要で費用や手間はかかりますが、
専門家である公証人が話を聞き取って作るので、法律上問題のない遺言書ができあがります。
その上、原本が公証役場に保管されるので紛失などの恐れもありません。
遺言の作成件数は増加傾向で、2015年のデータによると公正証書遺言の作成は約11万8000件。
自筆証書遺言の検認件数も約1万7000件になっていますが、両者を合わせても年間死亡者数の1割ほどにとどまっています。
いずれ作成する必要性を感じているものの、やはり自分の死を意識しながら作る遺言書に抵抗感を感じている人が多数いるのが伺えます。
■遺言書を作成する際の注意点
遺言は書き方を誤れば、それ自体が相続人同士の争いの種になる可能性があります。
ではどんな点に注意すればよいのでしょうか?
まずは「誰にどの財産をどれだけ譲るのかを明確にすること」が重要です。
財産を均等に分けるのは現実にはたやすいことではありません。
例えば自宅を長男に相続させるとしても、他の兄弟姉妹らが不満を持たないよう気にかける必要があります。
また、「献身的に介護してくれた長男には”多め”に財産を譲る」など、譲渡する金額を曖昧に表記するのも避けなければなりません。
相続人同士の話し合いで、分配する金額を円満に決めることができればいいのですが、もしそこに解釈の違いがあれば、争いに発展しかねないからです。
また、特に覚えておきたいのが民法の「遺留分」という考え方です。
最低限の権利として遺族が相続すべき割合が確保されており、被相続人が遺言によっても自由に処分できない財産のことです。
そのほとんどは、法廷相続分の2分の1と定められています。
もしも遺言でこの権利を無視して偏った遺産の配分にすると、自分の亡き後、深刻な揉め事になりかねません。
権利を侵害された遺族が、その分を渡すよう他の遺族に求めることがあるからです。
これを遺留分の減殺請求といいますが、最も厄介な遺産トラブルともいわれており、とりわけ目立つのは自宅の不動産を巡る争いです。
例えば長男が一人で自宅の不動産を受け取り、他の相続人はほとんど何も配分がないという場合。
不満をもって遺留分減殺請求権を主張すれば、自宅は相続人みんなによる共有という扱いになります。
そうなると自宅を売りたくなっても本人の一存では売れません。
遺留分に相当する額を渡して納得してもらえればいいですが、お金がなければそれもできず共有の状態が続き、最終的には裁判所で争うことになるケースが多いのです。
■遺言は家族へのラブレター
どことなく素っ気ないイメージの遺言書ですが、献身的に介護をしてくれている、
家業を大いに手伝ってくれているなど遺産配分の理由や、家族への感謝の気持ちなど自分の気持ちを書き記すこともできます。
これを付言事項といいますが、この家族へのメッセージがトラブルを防止する助けになることがあるのです。
子どものうち一人に多くの財産を分ける遺言を残す場合、その理由が分からなければ他の兄弟たちが反発することでしょう。
しかし付言事項にその理由が書いてあれば、納得が得られるかもしれません。
家族の幸せを願うからこそ書く遺言書は、最後のラブレターとも呼ばれます。
遺産トラブルからの「争族」を避けるためにも、遺言書の作成を検討してみてはどうでしょうか。
遺言書に抵抗があれば、普段の感謝の気持ちを書くつもりでリガーズサービスの
「エンディングノート」や「うたかたより」を活用していただくのも一案です。
面と向かっては言えないような照れ臭い言葉を形にする、良い機会になるかもしれません。
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エンディングノートや遺言をつくることだけが終活ではありません。
終活とは成熟した大人がこれからの人生をどのように楽しみ、次の世代に何を託すのかを決める作業です。
何かを決めるということは大変な作業ですが、
それだけにその決断は大切なヒトへのやさしさや愛情になるのではないでしょうか。
リガーズサービスのコラムが、あなたの充実した終活のお役に立てれば幸いです。