近年、首都圏などの都市部では墓地用地が不足し、
墓地に代わる新しいお墓のカタチとして、「納骨堂」に関心が高まっています。
それと同時に、多くの問題も出てきはじめています。
お墓の問題は、終活を始めるきっかけになることも多く、
終活世代にはとても切実な課題です。
今回は、納骨堂とその問題点について紹介します。
納骨堂とは?定義とその種類
納骨堂とは、お墓のようにご遺骨を土に埋めるのではなく、
個人、夫婦といったさまざまな単位でご遺骨を収蔵する
「納骨スペース」のことを言います。
実は納骨堂は昭和初期からあり、
お墓を建てるまでの間に一時的にお寺の境内で
ご遺骨を預かる建物のことを指していました。
現在では、深刻な少子高齢化の影響で承継者不足に悩む利用者が増えたことから、
三十三回忌、五十回忌など安置期間を定め、
その一定期間が経過したあとは
永久供養墓などの合祀墓に移して供養する納骨堂が多いようです。
そんな納骨堂ですが、所謂ロッカー式のイメージが強いと思いますが、
最近では多くの施設が工夫を凝らし、種類が豊富になってきています。
◆ 個別の収蔵庫が縦横に並んだ「ロッカー式」。
駅などで見かけるコインロッカーのようなシンプルなデザインから、
小さな墓石や仏壇のようなものもあります。
仏壇より区画が狭いものも多く、費用を抑えることができます。
◆ 立体駐車場の技術が応用された「機械式」。
カードキーやタッチパネルなどで操作することで、
収納スペースに収められた骨壷が礼拝スペースまで移動してきます。
土地不足の都市部で増えてきています。
◆ 棚に骨壷を並べて収蔵するタイプの「棚式」。
最近では専用の礼拝スペースから拝むようになっているものが多くなり、ご先祖
様を直接拝んでいるという感覚が持ちにくい人もいるそうです。
このようにバリエーションも様々です。
納骨堂は墓石が不要であるためお墓を建てるより安価であり、
墓地に行くよりお参りがしやすいことから利用者が増えはじめています。
「宗旨・宗派を問わない」と掲げているところも増え、菩提寺のない人のほか、
神道、道教、キリスト教などの仏教以外の宗教を信仰している人々の利用も増えています。
その一方で、
建設計画への住民の反対や、、
課税対象か否かの判断が自治体ごとに異るなど、
納骨堂に関する曖昧な法律が様々な問題を引き起こしています。
増え続ける納骨堂、起こる都市混乱
納骨堂は全国で約1万2000件(15年度)あります。
さらに、首都圏1都3県と京都府、大阪府、兵庫県では15年度は計1386件と、
10年前に比べて32%増えました。
ですが、墓地とは違い法制度上の位置づけが曖昧なため、
普及に課題が見えてきています。
40年以上地元の方々に愛され、
年間約600件のお産を手がけている、
千葉県浦安市のある産婦人科医院。
2017年4月、産婦人科の隣に納骨堂の建設計画が持ち上がりました。
医院は「出産を控えた妊婦さんの心情を考えて欲しい」
と伝えましたが、
「法律上の問題はない」と住職に聞き入れてもらうことができず、
患者たち約7000人の建設反対署名を市に提出しました。
同年8月に市が出した回答は、
今回の計画は止められないという趣旨でした。
通常、墓地や納骨堂、火葬場の整備・経営は自治体の許可が必要です。
2000年に国が規定指針をつくり、
多くの自治体はその指針に基づき条例などを定めました。
当時は死者の供養は墓地で行うのが主流であり、
指針は墓地の設置場所や構造設備に基準を示していますが、
納骨堂に関する記述はほとんどありません。
医院のある浦安市も、2001年制定の条例があるものの、
「墓地は隣接の居住者らの許諾がないと原則作れないとしているが、
この規定に納骨堂は含まれない」
とされていたために、
納骨堂の建設問題は医院側の意見が聞き入れられなかったのです。
ただし問題となった市は、無秩序な乱立を防ぐため、
9月に納骨堂の整備基準を設ける条例改正案の骨子を公表しました。
別の都道府県でも問題は起きています。
大阪市では2017年8月、
住宅地に6階建ての「機械式ビル型納骨堂」の建設が計画されていました。
納骨堂の建設に反対する住民たちが、
市に経営許可の取り消しを求める訴えを起こしました。
原告の一人であり隣地のビル所有者は、
「個人の家があった土地で、しかも建築主は市外の宗教法人。
縁もゆかりもなく受け入れられない」と憤っていました。
このような問題が起こってしまうのは、法制度が曖昧で整備が
整っていないからです。
そして、法制度の曖昧さは寺院側にも及びます。
同じ遺骨を納める場所でありながらも、
地方税法では固定資産税か非課税か納骨堂には定めがありません。
そのため課税に踏み切る自治体が出ています。
金沢市に本院がある宗教法人は2013年、
東京都内に納骨堂を建てました。
ところが2015年3月に、納骨堂として使う敷地と建物の昨年度分の固定資産税として、
計400万円余りを納めるよう、東京都から求められました。
これに対して宗教法人は7月、都に課税取り消しを求め提訴しましたが、
2016年に東京地裁は訴えを退けました。
地方税法は、宗教法人が宗教目的で使う土地や建物は、
固定資産税などを非課税にすると定めています。
寺や神社、墓地も非課税あつかいとされてきたために、
宗教法人は納骨堂も墓地と同じ非課税だと考えていました。
しかし宗教法人は、宗教不問で遺骨を受け入れたり、
仏壇会社に販売委託して手数料を払うなどをしていました。
こうした手法が本来の目的で使う土地や建物の用途ではないとみなされ、
課税に踏み切ったのです。
気がかりなのは、自治体ごとで納骨堂への課税判断が異なるということです。
横浜市は、土地は非課税で建物が課税であり、
名古屋市では、実態を見て判断しますが現時点では非課税とされています。
このことから、法の曖昧さがより深く見て取れるでしょう。
まとめ
2040年には死亡者数は推定168万人に上り、
納骨堂へのニーズはさらに高まることでしょう。
家族観の変化や技術革新で供養スタイルは変わるものです。
しかし、新しい弔いのカタチへの制度設備を放置していると、
子孫世代に禍根を残してしまうかもしれません。
終活世代の方々は、
今のうちにご家族とお墓について話し合い
ご自分の考えのみだけではなく、
ご家族にとってもベストな選択ができるようにしていきましょう。
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エンディングノートや遺言をつくることだけが終活ではありません。
終活とは成熟した大人がこれからの人生をどのように楽しみ、
次の世代に何を託すのかを決める作業です。
何かを決めるということは大変な作業ですが、
それだけにその決断は大切なヒトへのやさしさや愛情になるのではないでしょうか。
リガーズサービスのコラムが、あなたの充実した終活のお役に立てれば幸いです。