【終活】要介護度改善で報奨金 介護はどう変わる?

2017年6月に政府が発表した「未来投資戦略2017」。

多種多様な政府施策が示された安倍政権5度目の成長戦略ですが、ここに盛り込まれた施策の一つに、
「利用者の介護度を改善させた介護事業者への報酬を手厚くする方針」があります。

自立支援を中心にした介護へと軸足を移すことで、元気な高齢者を増やし、
介護医療費の抑制につなげる狙いです。

この成功報酬制度は今後の介護をどのように変えていくのでしょうか?
いち早く取り組みを始めた自治体などを参考に、
大きく方向転換を始めた介護事業について考えていきます。

介護事業者のジレンンマ

前回の記事でも少し話題にしましたが、
現行の介護保険制度は、要介護度が高いほど介護事業者に支払われる報酬が高く設定されています。

これは、介護を必要とする人の介護度が高ければ高いほど、
提供するサービスの量が増えるため
なのですが、
逆に言えば利用者の状態改善によって要介護度が下がれば、
事業者の報酬が減ってしまうということになります。

本来なら介護事業者は自立のために要介護者にリハビリを受けさせ、
要介護度を下げることが望ましいのですが、
それにより介護報酬が減ってしまうというジレンマも生まれます。

すべての介護事業者がそうだとは言えませんが、
介護報酬が減ることを懸念して状態改善に動こうとしない事業者もあるかもしれません。

成功報酬をいち早く導入した自治体

上記のような危惧もある中で、成功報酬制度を自治体主体でいち早く導入したのが岡山市です。

岡山市は政令指定都市の中で、
高齢者1万人当たり17.3施設と人口あたりのデイサービス事業所数が多く、
政令指定都市の中で1位にあたります。

事業所が必要以上に増えてしまった結果、
サービスの質が低下している…などの声も聞こえてくる現状を受けて、
今回の評価事業を始めました。

導入にあたり、市内のデイサービス事業所や厚生労働省、有識者で協議し、
日常生活機能を評価する13の項目を設定。
その他、機能訓練指導員数をはじめ認知症高齢者の受け入れ数、
介護福祉士数など要介護度の改善具合だけで報酬を与えない評価基準を設けました。

これは改善が見込める人だけを受け入れる「いいとこ取り」と、
改善見込みのない人が利用しにくくなってしまうのを避けるためです。

評価項目 0点 1点 2点
1 介護者が安静の

必要があると判断

判断しない 判断する
2 どちらかの手を

胸元まで持ち上げられる

できる できない
3 寝返り できる 何かにつかまればできる できない
4 起き上がり できる できない
5 座位保持 できる 支えがあればできる できない
6 移乗 介助なし 一部介助 全介助
7 移動方法 介助を要しない移動 介助を要する移動
8 口腔清潔 介助なし 介助あり
9 食事摂取 介助なし 一部介助 全介助
10 衣服の着脱 介助なし 一部介助 全介助
11 他者への意思伝達 できる できる時と

できない時がある

 

できない

12 介助の指示が通じる はい いいえ
13 自傷行動 ない ある

 

決められた指標を達成した事業所は「指標達成事業所」と認められ、
市の広報紙などで紹介されます。
さらに指標達成事業所のうち改善率の高い上位10事業所は市から表彰され、
10万円の奨励金も与えられます。

取り組み前と比べ指標を達成した事業所では、一人当たりの介護保険給付費の減少、
利用者の状態の改善など、
一定の効果があるようです。

向上する施設職員の士気

重度になるほど報酬が上がる現状の介護保険は、
どうしても機能回復に積極的になれない要因を作り出しています。
努力して自立支援を行った結果、受け取る報酬が減るのでは、
それも当然といえるでしょう。
しかし、今回政府が導入しようとしている成功報酬制度は、
職員のモチベーションを大きく上げているようです。

岡山市の指標達成上位10事業所に選ばれた「デイサービスセンター・アルフィック東川原」。
最新のトレーニング機器が並ぶこの施設では、
1日平均42人が作業療法士らの指導のもと、
リハビリなどの運動をしています。
責任者の小馬誠士さんは「表彰で職員の士気が高まった。
これを励みに、さらに機能回復に向けた取り組みに力を入れたい」
と利用者の自立支援への意欲を語っています。

指標達成上位10事業所に次ぐ、
高い評価を得た「愛光苑」の筒井恵子施設長は「私たちの仕事を世間に認めてもらう好機。
利用者の身体機能の維持・改善に向けた職員の意識もより明確になった」
と評価しています。

このような職員の士気の向上は利用者にも伝わり、回復意欲を高め、
早期改善にもつながっているようです。

状態改善を優先しすぎるリスク

要介護度の改善に力を入れる一方で、
状態改善が見込めない利用者に対する配慮をどうするべきかという問題があります。
自立支援に重点をおく事業者が、
本人の意思を置き去りにした過度のリハビリを行う可能性も考えなければなりません。

例えば90歳を超えた利用者に対して行うむやみな歩行訓練で、
その人の生活満足度を下げてしまっては意味がないばかりか、
本人が望まない過酷なリハビリは「虐待」と受け取られることもあります。
他にも、状態改善が見込めない利用者を避ける介護事業者が出てくる可能性もあります。
成功報酬による成果主義を徹底すれば、
収益につながりそうな利用者だけを選別し受け入れる事業者が現れるリスクも当然考えなければなりません。

今回の成功報酬制度は報奨金にばかり目が行きがちですが、
介護は公共サービスであり過度な儲け主義に傾かないよう、
国や行政で管理していく必要があるでしょう。

介護の本来の目的

介護の本来の目的を考えるならば、人生が終わるそのときまで、
その人らしく生活を続けられるようサポートすることではないでしょうか。
オムツを履きベッドで1日中過ごすよりも、自分の足で行きたいところに行き、
やりたいことができるのが理想です。

成功報酬制度は、要介護者の生活の質を向上させ自立を促すという面で、
本来の介護の目的を果たす鍵
になりえます。
この取り組みが高齢化の進行で膨れ上がる介護医療費の抑制につながり、
さらには介護事業者のやる気を高めてくれるというメリットもあります。

しかし、本当に自立困難な要介護者が敬遠され取り残されてしまっては、元も子もありません。
終活世代の方々にとっては他人事では済まされない、切実な問題。
損得の計算が先に立つ介護ではなく、
人の喜びや悲しみに寄り添うことができる介護事業の運営を願うばかりです。

【関連リンク】「増え続ける介護給付費…その実態とは」

 


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