中国から日本に伝わり、独自の発展を遂げてきた「漢方薬」を西洋医学でも活用しようとする動きが広まっています。
漢方薬の効き目が次々に立証され、西洋医学との併用で大きな成果を挙げていることから、抗がん剤の副作用や高齢者医療などに効果的に使おうと、国の実行計画や研究会の提言が後押ししています。
さらに高齢化が進む日本では、過剰な服薬や増大する医療費の抑制にも漢方は有効であると
考えられています。
そこで今回は、医療現場でも少しずつ浸透しつつある漢方の新たな活用法について、詳しく掘り下げていきたいと思います。
■医療界で広がる漢方薬の利用
中国を起源とする日本の伝統医学「漢方医学」。
そこで使用される薬のことを「漢方薬」といいます。
漢方という言葉を聞くと中国の医学というイメージを持ってしまいがちですが、実は古代中国の伝統医学をもとにして、日本人の体質やライフスタイルに合ったものに進化させながら、確立していったものです。
漢方薬は、自然界にある植物や鉱物などの生薬を基本的には二つ以上組み合わせて作られた、いわば複合薬です。
そのため一つの処方で様々な症状に対応できるうえ、組み合わせることで薬効の増強や副作用の緩和が図られています。
何千年という長い年月をかけて行われた治療の経験によって、どの生薬を組み合わせるとどんな効果が得られるのか、また有害な事象などがないか確かめられ、漢方処方として体系化されました。
現在148処方の漢方薬が保険適用で使えるようになっており、病院でも西洋医学と漢方薬の両者を併用することで有効であったケースが増えています。
例えば、血圧を下げる、細菌を殺す、精密検査をするなど、西洋医学のほうが得意である
分野では西洋医学で対応し、西洋医学では対応しにくい不定愁訴(頭が重い、イライラする、よく眠れないなどの自覚症状)や、検査には表れにくいちょっとした不調は漢方医学で治療するなど、それぞれの長所を生かすことでよりきめ細かで、患者さんにぴったり合った適切な治療が可能になるといえるでしょう。
■がん治療に活用
都内に住む70代の男性は、消化管の壁にがんができ手術で摘出しました。
しかしその後、腹部に転移し抗がん剤治療を受けることになったのですが、体のだるさや下半身の冷えがつらく、薬を飲み続けるのが困難な状態になってしまいました。
そこで下半身の冷えに効果がある「牛車腎気丸」など、4種類の漢方薬を処方したところ、副作用は徐々に和らぎ、抗がん剤治療を続けられるようになりました。
また、咽頭がんなどで放射線治療を受け、唾液が出にくくなった患者には「麦門冬湯」を処方し、低下した生活の質を改善した例もあります。
現在、医療用の漢方薬は148処方が薬価収載されていますが、どの漢方薬を使うかは副作用の症状や検査結果から決めていきます。
しかし漢方薬の効果について、実は科学的根拠が明確でない点が多いのが現状です。
そのため、処方例からのデータ解析や臨床的な研究が急がれています。
厚生労働省が2015年12月に公表した「がん対策加速化プラン」では、がん患者の副作用や後遺症の軽減を目的に、また2017年3月に公表された「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」の提言書にもがん患者とその家族に漢方薬に関する科学的成果を伝えていくことが明記されました。
■高齢者医療にも効果期待
「筋肉痛がつらい」という70代の女性は、休まず歩けるのは数百メートルで、片足で立つこともできない状態でした。
加齢とともに運動機能や認知機能が低下する「フレイル」の状態に陥っていたため、体力や気力を高める効果もある牛車腎気丸を処方したところ、握力は10キロ以上、歩ける距離は2~3キロに回復しました。
専門家は「漢方の本質は生体の持つ回復力を引き出すこと」と説明します。
患者の状態をよく見極めて処方すれば一つの漢方薬で複数の症状を改善することもあり、
「ポリファーマシー(多剤併用)からの脱却」につながると言います。
ただしそのためには正しい知識に基づいた処方が不可欠になります。
日本老年医学会は2015年、「高齢者医療の安全な薬物療法ガイドライン2015」をまとめ、
科学的根拠に基づいた高齢者の漢方治療を初めて盛り込みました。
世界でも初めての漢方薬に関する高齢者の診療ガイドラインであり、漢方薬の適正使用が広がっていくことが期待されています。
高齢者への処方が増えるなか、専門医以外が高齢者に漢方を処方する際に知っておくべき情報も記載されており、より安全な治療を行うよう促しています。
■漢方薬で、いつまでも元気な身体を
病気に対し狙いを絞って対処する西洋医学と違い、漢方はこれを飲めば病気が治るというものではありません。
しかし生薬由来の成分でできているので、科学的な薬と違い副作用をあまり気にせず服用することができるという特徴があります。
また「冷え」や「だるさ」など、病名のつかない病気を治療することが苦手な
西洋医学と異なり、自覚症状などを重視する漢方では、患者さんを悩ます「見えない病態」を取り除いてくれることもあります。
身体全体の調子を整え自然治癒力を高めてくれる漢方は、加齢に伴う身体の不調にも効果が期待できると言えるでしょう。
最後に、長寿・子沢山だったことで有名な徳川家康も、漢方を愛用していたという説が
あります。
平均寿命が40歳程度であった時代に、75歳まで生きた徳川家康の寿命は群を抜いて
際立ちますが、これには漢方薬の力が貢献していたのかもしれません。
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